肉や魚だけでなく、卵や乳製品も含め、動物性食品を全くとらないプラントベースやヴィーガンの食生活をしていると、タンパク質が不足するのではないかと思われがちです。しかし実際には、タンパク質は、植物性食品から十分に、しかも安全に摂取することができます。この記事では、タンパク質の役割と必要量、動物性タンパク質と植物性タンパク質の違い、植物性タンパク質を選ぶ理由、タンパク質が豊富な植物性食品などについて書いてみたいと思います。
タンパク質の役割と必要量
人間のからだを構成する重要な成分であるタンパク質は、20 種類のアミノ酸が結合してできた化合物です。そのタンパク質を構成するアミノ酸のうち 9 種類は、人間が体内で合成することができないため、食事から摂取する必要があります。これらのアミノ酸は、必須アミノ酸と呼ばれています。タンパク質は、筋肉や臓器、皮膚、血液、骨などの身体組織を作るほか、代謝や身体機能の調節に重要な役割を果たす酵素やホルモン、抗体などを作るために使われます。
厚生労働省が発表する 2020年版日本人の食事摂取基準によると、推奨される一日のタンパク質摂取量は、成人男性では 65 g/日、成人女性では 50 g/日となっています。65歳以上の高齢者では、男性 60 g/日、女性では 50 g/日が推奨されています。成長期、妊娠期、授乳期などには、より多くのタンパク質が必要になります。また、運動量や健康状態によっても必要量は変わります。
年齢 | 男性推奨量 g/日 | 女性推奨量 g/日 |
---|---|---|
1~2(歳) | 20 | 20 |
3~5(歳) | 25 | 25 |
6~7(歳) | 30 | 30 |
8~9(歳) | 40 | 40 |
10~11(歳) | 45 | 50 |
12~14(歳) | 60 | 55 |
15~17(歳) | 65 | 55 |
18~29(歳) | 65 | 50 |
30~49(歳) | 65 | 50 |
50~64(歳) | 65 | 50 |
65~74(歳) | 60 | 50 |
75 以上 (歳) | 60 | 50 |
ところで、三大栄養素ともいわれるタンパク質、炭水化物、脂質は、それぞれ別個のものとしてあつかわれることが多いですが、人間の体内に入ったこれらの栄養素は、それぞれが単独で働くとは限らず、互いに協力して共通の目的を果たすこともあります。また、タンパク質と炭水化物の複合体である糖タンパク質や、タンパク質と脂質の複合体であるリポタンパク質のように、同一分子中に存在することもあります。例として、 LDL や HDLなどのリポタンパク質は、血液中で脂肪を運搬します。また、糖タンパク質である免疫グロブリンは、血液や体液中に存在し、抗体としての機能と構造をもっています。このように、それぞれの栄養素は、相互に関連しあって機能することから、さまざまな栄養素を含む一つの食品から個別の栄養素を抜き出して、それが人間の体に与える影響を評価することには限界があります。これは三大栄養素に限らず、その他の栄養素についても同じです。ここでは、便宜上、タンパク質をひとつの栄養素として別個にあつかっていますが、実際には、食品から摂取する場合、タンパク質は、他の栄養素と一緒に摂取することになり、それらの栄養素は、複雑に関連しあって作用すると考えられます。タンパク質が人間の体にとって重要なことは間違いありませんが、プロテインパウダーやアミノ酸のサプリメントなどとして、単離した栄養素の形で摂取した場合には、食品として摂取した場合と同じ効果は得られないと思われるので注意が必要です。
動物性タンパク質と植物性タンパク質の違い
タンパク質というと、肉や魚などの動物性食品を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし実際には、植物性食品もタンパク質を含んでいます。大豆などの豆類にタンパク質が豊富なことは多くの人がご存じかと思いますが、野菜や果物、穀物、種子、ナッツは、どれもすべてタンパク質を含んでいます。動物性タンパク質は、植物性タンパク質よりも「良質」であると言われていますが、これは、植物性タンパク質よりもアミノ酸スコアが高いためです。アミノ酸スコアとは、タンパク質が 9 種類の必須アミノ酸をバランスよく含んでいるかどうかを知るための指標で、この値が高い方が体内での利用効率がよいと考えられています。そのため、アミノ酸スコアが高く、アミノ酸がバランスよく含まれる動物性タンパク質は「良質」といわれているのです。
必須アミノ酸とは、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリンの 9 種類をいいます。
しかし、実は、どの植物性食品も動物性食品と同様に、9 種類すべての必須アミノ酸を含んでいます。植物性食品のタンパク質が動物性タンパク質よりも劣るといわれている理由は、一部の必須アミノ酸(多くの場合、リシンとメチオニン)の含有量が比較的少ないからです。そして、植物性タンパク質は、必須アミノ酸すべてがバランスよく含まれていないという理由で、不完全タンパク質と呼ばれることもあり、植物だけでは十分なタンパク質がとれないという誤解をされがちです。しかし、ここで留意したいのは、ひとつの食品にすべてのアミノ酸がバランスよく含まれていなければならないわけではない、ということです。これは、食べ物から摂取したタンパク質が、人の体内でそのままタンパク質として利用されるわけではないからです。食べたものは消化されてアミノ酸に分解され、小腸で吸収されて、いったん肝臓に送られます。そして、血管を通して全身の細胞に送られ、タンパク質を合成するために使われます。人の体には 10 万種類のタンパク質が存在するといわれていますが、これらは絶えず新しいものに作りかえられていて、古くなったタンパク質は分解されてアミノ酸となり、新たなタンパク質を作るために再利用されます。これらの再利用されるアミノ酸、食事で摂取したアミノ酸、そして体内で合成されたアミノ酸は、アミノ酸プールとして細胞や血液中に常に一定量が保持されます。このアミノ酸プールが、新たにタンパク質を作るための材料になるのです。つまり、特定のタンパク質を合成するためには、それに必要なアミノ酸がプールされていればいいということになります。したがって、体内でタンパク質を合成するためには、ひとつの食品がすべての必須アミノ酸をバランスよく含んでいる必要はなく、全体として十分なアミノ酸が存在すればよいのです。そして、植物性食品のみを摂取していても、十分な量のタンパク質を摂取していれば、必須アミノ酸の必要量は容易に達成できます。重要なのは、アミノ酸のバランスを考えることではなく、食事全体のバランスを考えて、多種多様な植物性食品をなるべく未加工・未精製の状態で食べることではないでしょうか。
植物性タンパク質を選ぶ理由
動物性タンパク質の摂取は、糖尿病発症リスクの増加、心血管疾患の増加、がんの発症率の増加、骨量の減少、BMI の増加などと関連付けられています。例えば、最近の研究1では、赤身の肉と加工肉が心臓病のリスクと関連する一方、一日一食、動物性タンパク質を豆や全粒穀物などの植物性タンパク質に置き換えることにより、心臓病のリスクが低下することが報告されています。別の研究2は、摂取する動物性タンパク質のうち 3% を植物性タンパク質に置き換えることにより、心臓病による死亡リスクを男性で 11%、女性で 12% 低下させ、全体的な死亡リスクを男女ともに 10% 低下させたと報告しています。また、2019 年に発表された研究3では、植物性タンパク質に対する動物性タンパク質の比率が高い場合、および肉類を多く摂取した場合、死亡リスクが上昇したことが報告されています。
参考文献:
1. Al-Shaar L, Satija A, Wang DD, et al. Red meat intake and risk of coronary heart disease among US men: Prospective cohort study. BMJ. 2020;371:m4141-m4150. doi: 10.1136/bmj.m4141
2. Huang J, Liao LM, Weinstein SJ, Sinha R, Graubard BI, Albanes D. Association between plant and animal protein intake and overall and cause-specific mortality. JAMA Inter Med. Published online July 13, 2020.
3. Virtanen HEK, Voutilainen S, Koskinen TT, et al. Dietary proteins and protein sources and risk of death: the Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study. Am J Clin Nutr. Published online April 9, 2019.
このように動物性タンパク質を摂取することには、さまざまなリスクが伴います。また、動物性タンパク質をとるということは、その分植物性食品の摂取量が減るということにもつながり、さまざまなファイトケミカル(植物中の化学物質)のもつ抗酸化作用の恩恵を受ける機会を失うことになります。また、動物性食品には食物繊維が含まれないことから、健康維持に欠かせない食物繊維の摂取量も減ってしまいます。
以上のような健康上の理由、さらには畜産による環境負荷などを考えると、個人的には、やはり植物性食品を選びたいと思います。
タンパク質が豊富な植物性食品
野菜や果物、全粒穀物、豆類、シード類などを食べるホールフーズプラントベースダイエット(詳しくはこちら)にしたがって、多様な植物性食品から十分なカロリーを摂取していれば、タンパク質欠乏症になることはまずないと思われます。とはいえ、指標として知っていて損はないので、タンパク質の含有量の多い植物性食品を以下にまとめました。100 g 当たりのタンパク質量なので、比較するのは難しいかもしれませんが、少しでも参考になれば幸いです。
種類 | 食品名 | タンパク質 g/100g |
---|---|---|
豆類 | ゆで大豆 | 14.8 |
ゆで小豆 | 4.4 | |
ヒヨコ豆 | 9.5 | |
ゆで枝豆 | 11.5 | |
生おから | 6.5 | |
ゆでグリーンピース | 6.2 | |
木綿豆腐 | 7.0 | |
納豆 | 16.5 | |
味噌 | 12.5 | |
豆乳 | 3.6 | |
ナッツ類 | ピーナッツ | 25.0 |
アーモンド | 20.3 | |
カシューナッツ | 17.0 | |
クルミ | 14.6 | |
ピーナッツバター | 20.6 | |
シード類 | いりゴマ | 20.3 |
亜麻仁(フラックスシード) | 18.0 | |
チアシード | 19.4 | |
練ゴマ | 19.0 | |
穀類 | オーツ麦(ロールドオーツ) | 13.0 |
玄米(炊) | 2.8 | |
キヌア (炊) | 5.0 | |
全粒粉パン | 7.9 | |
全粒粉パスタ(乾燥) | 5.0 | |
蕎麦(乾燥) | 14.0 | |
野菜 | ゆでブロッコリー | 3.9 |
ゆでカリフラワー | 3.0 | |
蒸しサツマイモ | 0.9 | |
蒸しジャガイモ | 1.9 | |
ホウレンソウ | 4.2 | |
アスパラガス | 2.6 | |
キノコ類 | しいたけ、ゆで | 2.5 |
まいたけ、ゆで | 1.6 | |
藻類 | 乾燥ワカメ、水戻し | 2.0 |
干しヒジキ、ゆで | 0.7 | |
果物 | ゆで栗 | 3.5 |
アボカド | 2.5 | |
バナナ | 1.1 | |
キウイフルーツ | 1.0 | |
オレンジ | 0.9 |
上の表から、豆類は、タンパク質を特に多く含むことがわかると思います。ホールフーズプラントベースダイエットで、豆類が特に重要視されているのも納得がいきますね。豆の取り入れ方ですが、私は、豆腐や味噌などの大豆製品以外では、ご飯に豆を入れて炊くことが多いです。黒豆、緑豆、レンズ豆など、いろいろな豆を入れます。ひよこ豆は、ディップにしたり、カレーに入れたり、サラダにしたり、いろいろな料理に利用できます。レンズ豆も加熱時間が短いので便利です。
日本人の場合、豆腐や味噌、納豆などの大豆製品を食べることが多いので、タンパク質をとるのに都合がいいですね。豆腐とわかめの味噌汁(木綿豆腐 40g、乾燥ワカメ 2g、みそ 16g)と玄米ごはん(茶碗一杯 150 g)では、タンパク質は 9.3 g です。これを一日三回食べるだけで、一日の必要量の半分ほどのタンパク質がとれることになります。
最後に
上述のように、多種多様な未精製・未加工の植物性食品をバランスよく食べていれば、タンパク質だけでなく、炭水化物や脂質を含むほとんどの栄養素は自然と摂取できるものです(ビタミンB12、ビタミンD、オメガ3については、注意が必要です)。動物性食品の摂取に伴う健康への悪影響が気になりながらも、植物性食品だけではタンパク質を十分にとれないのではと不安に感じている方もいるかもしれませんが、以前にご紹介した ビル・クリントン氏 や エリック・アダムス氏 を見ても、ヴィーガンやホールフーズプラントベースといった食事法が人の健康にいかに有益かがわかるのではないでしょうか。また、最近では、動物性食品をまったく摂らずに世界的に活躍しているアスリートも増えてきました。これは、植物性タンパク質が優れていることの証拠といってもいいかもしれませんね。